腫瘍科外来
ONCOLOGY
血管肉腫
基本情報
検査
治療
-
血管肉腫とは?
血管肉腫とは、血管を構成する血管内皮細胞ががん化した病気です。犬の血管肉腫は脾臓に発生することが多く、その他、心臓、皮膚、皮下、肝臓、腎臓、骨、膀胱など様々な臓器に発生します。脾臓の血管肉腫の場合、ほとんどの症例で肝臓、大網、肺に転移することが多いです。また、血管肉腫は播種性血管内凝固症候群(DIC)と呼ばれる病態(血が止まりづらい、小さな血栓が無数にでき、命を脅かす状態)を併発しやすく、診断時の血小板減少は75~97%、DICの基準を満たす症例は47~50%にも及びます。
症状
犬の脾臓や肝臓の血管肉腫の症状は、しこりが破れてお腹の中に出血した場合に初めて症状が認められます。急にぐったりする、立てない、粘膜や舌の色が白っぽくなる、お腹が膨らんでくる、など、腹腔内出血に関連した症状で気づかれる場合が多いです。これらの症状は12-36時間以内に改善することがありますが、出血を繰り返すと貧血が重度となり、致命的になることもあります。心臓に発生する血管肉腫は、心臓の周囲を覆っている膜の隙間に出血した血が溜まり、心臓を圧迫することで急にぐったりする、立てないなどの症状がでます。この状況は非常に危険な状態ですので、急にぐったりしたり、立てない症状があれば、受診をお勧めいたします。
-
血管肉腫と診断し、治療方針を決めるためには、さまざまな検査を行います。検査の目的は、診断、肝臓や肺への転移の有無を確認すること、腫瘍の広がりを調べ外科療法が可能かどうか、治療を安全に行うことができるかどうか全身状態の確認などがあります。また、手術前に輸血が必要かどうかも調べます。
細胞診検査・病理組織検査
血管肉腫の診断では、しこりに針を刺して、腫瘍細胞の形や性質を顕微鏡で観察する細胞診検査は、診断できる可能性が低く、また、出血させる可能性もあるため、実施しないことの方が多いです。腫瘍の切除後に病理組織検査にて確定診断をします。
病期(ステージ)や全身状態を調べるための主な検査
血管肉腫は転移率の高い腫瘍であるため、治療前に転移の有無を調べ、病期(ステージ)を把握しておくことが必要です。ステージによって余命が変わるため、外科治療が実施可能な状況か判断する材料となります。
血液検査・尿検査
全身状態を評価するために、血液検査や尿検査を行います。これらの検査で、肝臓、腎臓の機能を確認し、全身麻酔を必要とする外科治療や放射線治療に耐えられる状態か判断します。血管肉腫は血小板と呼ばれる血を止める働きをする血液の細胞が少なくなってしまったり、血を止める働きをする凝固因子(肝臓で作られる)が少なくなってしまうことが多く、場合によっては手術前に輸血が必要となることがあります。血液検査にて、血小板の和や凝固因子の状態を調べる検査も実施します。
画像検査
X線検査(レントゲン)、超音波検査によって血管肉腫の転移巣の有無を調べます。もっとも重要な検査は超音波検査です。超音波検査で、脾臓、肝臓、腹腔内、心臓などに腫瘍がないか細かく調べます。CT検査にて、さらに詳しく転移巣の有無を確認することもあります。
-
血管肉腫の治療は、発生部位によって異なります。脾臓、皮膚、皮下など切除可能な場所に発生した血管肉腫に対しては、外科治療が実施されます。一方、心臓に発生した血管肉腫やすでに肝臓に多発性に転移している血管肉腫では、外科切除は困難なため、薬物療法が実施されます。脾臓の血管肉腫であっても、すでに全身に転移している状態では、緩和治療を主体に治療法が決定されます。
外科治療
脾臓の血管肉腫では、手術によってがんを切除する方法が優先されます。出血し、ショック状態に陥っている場合は、状態を安定させてから手術が実施されます。手術時には、脾臓摘出後、肝臓やお腹の膜に転移巣らしきしこりがないかを観察します。脾臓摘出の術後に不整脈が発生することもあるので、術後も注意深い観察が必要です。
薬物療法
犬の脾臓の血管肉腫は転移率が高く、多くの症例が数ヶ月後に転移や播種(お腹のなかに散らばってしまうこと)が起こります。外科手術単独よりも、術後に抗がん剤治療を実施すると、転移や播種が起きる時期を遅くできることがわかっています。使用される抗がん剤はドキソルビシンを主体としたお薬です。