腫瘍科外来
ONCOLOGY
口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)
基本情報
検査
治療
-
悪性黒色腫とは?
悪性黒色腫とは、メラニン細胞を産生する細胞ががん化した病気です。メラノーマとも呼ばれます。犬の悪性黒色腫は口腔粘膜に発生することが多く、その他、皮膚、爪、眼球内に発生します。口腔内悪性黒色腫は、局所の浸潤性が強く、あごの骨を破壊したり、出血したり、痛みが出たりします。また、転移といってリンパ管や血管の中に腫瘍細胞が入って、全身に散らばってしまうこともよくあります。リンパ節転移率は41~71%、遠隔転移(肺、皮膚、脾臓、副腎など全身の臓器への転移)率は最大92%と報告されており、非常に厄介な腫瘍の一つです。
症状
犬の口腔内悪性黒色腫の症状は、口臭、よだれが出る、食べづらそうなどから始まります。その後、出血が認められることもあります。口腔内に黒いしこりが見つかることもあります。奥歯の歯肉に発生したり、上顎の中央、扁桃に発生する場合は見つけにくいこともあります。悪性黒色腫の一部には、黒くないピンク色のしこりもありますので、口腔内にしこりを見つけた場合は、受診をお勧めいたします。
-
悪性黒色腫と診断し、治療方針を決めるためには、さまざまな検査を行います。検査の目的は、診断、リンパ節転移や肺などの臓器に転移への有無を確認すること、腫瘍の広がりを調べ外科療法と放射線治療治療のどちらが適応か検討すること、治療を安全に行うことができるかどうか全身状態の確認などがあります。
細胞診検査・病理組織検査
悪性黒色腫の診断をするには、最も重要な検査で、しこりに針を刺して、腫瘍細胞の形や性質を顕微鏡で観察しラリ(細胞診検査)、腫瘍の一部を切り取り、腫瘍を小さな塊として顕微鏡で観察します(病理組織検査)。悪性黒色腫は、腫瘍細胞の細胞質にメラニン色素が見えることが多く、比較的簡単に診断ができます。一方、メラニン顆粒を含まない無色素性悪性黒色腫の診断は難しく、その他の腫瘍(未分化肉腫や線維肉腫など)との鑑別が必要です。
病期(ステージ)や全身状態を調べるための主な検査
悪性黒色腫は転移率の高い腫瘍であるため、治療前に転移の有無を調べ、病期(ステージ)を把握しておくことが必要です。ステージによって余命が変わるため、外科治療や放射線治療が実施可能か判断する材料となります。
リンパ節の針生検
リンパ節の針生検(細胞診)にて悪性黒色腫のリンパ節転移の確認をします。リンパ節転移はリンパ節の大きさだけでは評価できず、正常な大きさのリンパ節でも約40%が転移していたとの報告もあります。
血液検査・尿検査
全身状態を評価するために、血液検査や尿検査を行います。これらの検査で、肝臓、腎臓の機能を確認し、全身麻酔を必要とする外科治療や放射線治療に耐えられる状態か判断します。
画像検査
X線検査(レントゲン)、超音波検査によって悪性黒色腫の転移巣の有無を調べます。CT検査では、さらに詳しく転移巣の有無を確認すること、口腔内病変の浸潤の有無を調べ、外科切除が可能かどうかを検討します。
-
悪性黒色腫の治療は、一般的には、口腔内のしこりに対しては、外科治療、放射線治療、もしくは、その併用です。転移に対する治療としては薬物療法(抗がん剤治療)になります。標準治療(最も治療成績が良いとされる治療)は外科+術後の抗がん剤治療です。局所治療として外科治療を選択するか、放射線治療を選択するかは、一長一短があり、ご家族とよく相談しながら治療を決定します。ステージ4(両側のリンパ節転移もしくは遠隔転移あり)では、緩和治療を主体に治療法が決定されます。
外科治療
口腔内悪性黒色腫では、手術によってがんを切除する方法が優先されます。目に見えるしこりのみを切除しただけでは、再発(切除部位に再びがんが発生する)のリスクがあります。最初の手術でしこりの辺縁から約1~2cm離して広範囲に切除するのが原則です。
歯肉や硬口蓋(上顎の洗濯板のようなところ)に発生した口腔内悪性黒色腫の約6割に骨浸潤(真下の骨が腫瘍細胞で破壊されている)が確認されているため、ほとんどの場合で外科切除時に顎(あご)の骨を含めた切除が必要となります。実際は、厳密な評価をCT検査で実施し、切除範囲を決定します。
外科マージン(切除縁から腫瘍細胞までの距離)が確保できない場合は、最初のリスクが高くなるため、放射線治療が適応となります。また、顎の骨の切除範囲が大きくなると、食事に慣れるまで手から食事を与えたりと補助が必要となることもあります。
放射線治療
放射線治療には、高エネルギーのX線や電子線を照射してがん細胞を傷害し、がんを小さくする効果があります。犬の口腔内悪性黒色腫は放射線への感受性が高く、縮小する可能性がある腫瘍とされます。腫瘍縮小が認められない場合も、骨溶解に伴う痛みを緩和することが可能です。治療プロトコールは大線量小分割照射で、6Gy~8Gy、4~6フラクション(週1回照射)がよく用いられます。完全奏効率(腫瘍が消失)は53-69%、部分奏効率(腫瘍が半分以下に縮小)は23-33%と複数の論文で報告されています。ただし、完全に消失しても15-26%の症例で再発することがあります。
薬物療法
犬の口腔内悪性黒色腫は転移率が高いにもかかわらず、転移を確実に制御できる薬物療法は残念ながら現時点では明らかとなっていません。外科切除後にカルボプラチンを投与した報告や放射線治療後にテモゾロミドを投与した報告はあるものの、それぞれの薬剤の治療効果(本当に効果があるかどうか)を決定づけることは困難です。一方で、肉眼病変(しこりがある状態)に対するカルボプラチンの奏効率(腫瘍が半分以下に縮小する割合)は27.2%、部分奏効した症例の奏効期間(効果が持続する期間)の中央値は165日と報告されており、一部の口腔内悪性黒色腫に対してカルボプラチンの効果がある可能性があります。
人の進行期悪性黒色腫に対する治療は、数年前まではダカルバジンという抗がん剤を主体とした従来の化学療法でしたが、2014年以降、免疫チェックポイント分子に注目した免疫療法、分子標的治療へと大きく舵を切ることとなりました。そして、それまで手の打ちようのなかった患者さんたちの中に長期生存者が出始めています。人の悪性黒色腫ほどには、新規治療の成績が明らかとなっていませんが、犬の口腔内悪性黒色腫でも様々な臨床試験が実施され始めています。