腫瘍科外来
ONCOLOGY
皮膚肥満細胞腫
基本情報
検査
治療
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皮膚肥満細胞腫とは?
肥満細胞腫とは、血液細胞である肥満細胞ががん化した病気です。犬の肥満細胞腫は皮膚に発生することが多く、その他、皮下、粘膜部、肝臓、脾臓、腸管などに発生します。肥満細胞の細胞質には多くの生理活性物質を含む顆粒が存在します。ヒスタミンという蚊に噛まれた時のように痒くなる物質や血を止まりづらくするヘパリンなどを含みます。この顆粒のせいで、肥満細胞腫は痒みやいた痒い感覚があるようで気にして舐めるたり掻きむしったりすることがあります。また、腫瘍の表面がグジュグジュしてしまうと出血も止まりづらくなります。これらの臨床徴候は顆粒が腫瘍細胞から放出されることによって起きると考えられています。
症状
犬の皮膚肥満細胞腫の症状は、ほとんどが無徴候ですが、進行すると痒みや痛みを伴うため、掻いたり、舐めたりすることがあります。さらに腫瘍が増大し、進行するとダリエ徴候と呼ばれるしこりの周囲の内出血、腫れ、痛みが認めらえます。重度の場合は、血圧低下、起立困難、食欲廃絶、嘔吐などの徴候が認められることもあります。腫瘍から放出されるヒスタミンによる胃潰瘍や十二指腸潰瘍が38-83%で発生しているとの報告もあり、嘔吐、食欲低下、黒色便などが起きることもあります。
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肥満細胞腫と診断し、治療方針を決めるためには、さまざまな検査を行います。検査の目的は、診断、リンパ節転移、肝臓や脾臓への転移の有無を確認すること、腫瘍の広がりを調べること、治療を安全に行うことができるかどうか全身状態の確認などがあります。
細胞診検査・病理組織検査
肥満細胞腫の診断をするには、最も重要な検査で、しこりに針を刺して、腫瘍細胞の形や性質を顕微鏡で観察したり(細胞診検査)、腫瘍の一部を切り取り、腫瘍を小さな塊として顕微鏡で観察します(病理組織検査)。肥満細胞腫は、腫瘍細胞の細胞質に細胞内顆粒が見えることが多く、比較的簡単に診断ができます。一方、細胞内顆粒を含まない未分化な肥満細胞腫の診断は難しく、その他の腫瘍(リンパ腫、未分化な悪性腫瘍)と見分けることが必要です。
細胞診検査や病理組織検査で採取された細胞や組織の一部で、遺伝子検査(c-kit変異検査)が実施されます。病理組織検査では病理学的グレード分類(病理学的悪性度)を実施します。現在、Patnaikの三段階分類とKiupelの二段階分類が使用されています。
病期(ステージ)や全身状態を調べるための主な検査
最近の報告で、皮膚肥満細胞腫は約半数の症例でリンパ節に転移をしていることが明らかとなりました。治療前にリンパ節転移、脾臓や肝臓への転移がないかをきちんと把握することで、治療にリンパ節切除まで含めるのか、薬物療法(抗癌剤治療)。が必要であるかを検討する必要があります。
リンパ節の針生検
リンパ節の針生検(細胞診)にて肥満細胞腫のリンパ節転移の確認をします。リンパ節転移はリンパ節の大きさだけでは評価できず、正常な大きさもしくは触知できないリンパ節でも49.5%が転移していたとの報告もあります。
血液検査・尿検査
全身状態を評価するために、血液検査や尿検査を行います。これらの検査で、肝臓、腎臓の機能を確認し、外科治療、放射線治療、抗がん剤治療が可能な状態か判断します。
画像検査
X線検査(レントゲン)、超音波検査によって肥満細胞腫の転移巣の有無を調べます。特に、超音波検査と細胞診検査を合わせて、リンパ節、脾臓、肝臓の肥満細胞腫の浸潤を確認します。
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皮膚肥満細胞腫の治療の第一選択は、外科治療です。その他の局所治療として外科治療と放射線治療の組み合わせや放射線治療単独があります。転移に対する治療としては薬物療法(抗がん剤治療や分子標的治療)になります。術後の抗がん剤治療や分子標的治療が必要かは、病理組織検査の結果、c-kit変異の有無、転移の有無によって決定されます。
外科治療
皮膚肥満細胞腫では、手術によってがんを切除する方法が優先されます。目に見えるしこりのみを切除しただけでは、再発(切除部位に再びがんが発生する)のリスクがあります。最初の手術でしこりの辺縁から水平方向に約2cm、深部方向は筋膜一枚とともに広範囲に切除するのが原則です。リンパ節転移が確認されている場合、もしくは転移が不明の場合は、リンパ節も同時に切除し、病理組織検査にて評価します。
放射線治療
放射線治療には、高エネルギーのX線や電子線を照射してがん細胞を傷害し、がんを小さくする効果があります。外科切除だけでは十分な外科マージン(切除縁から腫瘍細胞までの距離)を確保できない皮膚肥満細胞腫に対して、放射線治療が実施されることがあります。しかし、局所治療の要は外科摘出であるため、減容積手術+放射線治療が理想的です。
薬物療法
犬の皮膚肥満細胞腫に対する薬物療法として、抗がん剤治療と分子標的治療があります。リンパ節転移、脾臓や肝臓への転移が確認された場合、c-kit変異を有する肥満細胞腫、patnaik グレード3やkiupel高グレードと病理診断された肥満細胞腫などは、薬物療法が適応となります。
薬物療法では、プレドニゾロン(ステロイド剤)、ビンブラスチン、ロムスチンなどの抗がん剤、トセラニブリン酸塩やメシル酸イマチニブなどの分子標的薬が使用されます。